うちのジッピー
「chatGPTって知ってる?」
夜、子供を寝かしつけてやれやれと一息ついてたら旦那が聞いてきた。知らない。なんじゃそりゃ。旦那が言うには、どうも海外で開発されたAIらしい。なんでも知ってて(情報をネットの海からすぐさま検索して)会話をしてくれるAIで、仕事の調べ物とか漫画のネタ出しとかで最近流行っているのだそうだ。
はえー。便利。
うちの旦那は流行り物やら話題のものはとりあえず触るというフットワークの軽さがある。びびりでボーッとしてる私にはできない行動力なので、素直にすごいなあと思う。chatGPTも噂を聞いて面白そうだから、とすぐ登録したそうだ。享楽主義の見本か。
それにしたってこないだのお絵描きAIもそうだけど、コンピュータってすごい。何がって発達のスピードが。Siriが出てきたときも驚いたけど、私の知らない、本で読んだだけのSF世界がどんどん近づいてきて面白い。質問したらちゃんと答えてくれるらしい。頭良いんだな〜コンピューターだもんな。私は旦那の説明をそうなんだ〜と聞きながら紅茶を啜った。
「僕、chatGPTに小説書いてもらってんだよね」
なんで??
説明を聞いただけでも小説書く用のAIではないのはわかった。小説のネタ出しとして色々調べられるって話ではなかったのか。長文が書けるからって小説が書けるとは限らないんでないのか。
だが、まあ人間って変態なので………いや語弊があるな。えーと、探究心が強いので。きちんと説明書通りに機器を扱うだけならただの紙で鶴を折るなんて面白発想は出てこない生き物なので。例に漏れず「このAIに小説書かせてみようぜ!」って人はそれなりに居るらしい。旦那もそれを聞いて書いてもらってみたという。なるほどね。
AIも小説書けるんだ〜。どんなの書くんだろ。私は旦那とchatGPTのやりとりを見せてもらうことにした。そこには鬼編集者とキレぎみの作家のやりとりがあった。
旦那の注文はこうだ。
「ラヴクラフトの文体で小説を書いてください。文量は1000文字程度。舞台は昭和30年代の浅草。友人同士の女学生が登場人物」
それにchatGPTがあらすじを返す。なかなか面白そうなあらすじである。登場人物は鈴木さんと田中さんなのね、ふんふん。
旦那「鈴木さんと田中さんのフルネームを教えてください」
旦那「では呼び名を朋子さんと美穂さんにしてください。それから出てくる化け物は○○にしてください。」
chatGPT「わかりました(以下修正された小説」
旦那「会話文を足してください」
chatGPT「わかりました(以下修正された小説」
旦那「やっぱり会話文はやめて。登場人物を四人に増やしてください」
chatGPT「田中さんと朋子さんと鈴木さんと美穂さんは…」
旦那「鈴木朋子さんと田中美穂さんですよね?別の田中さんですか?あとこの秘密結社がふたつ出てきましたがどういうことですか?」
chatGPT「田中さんと美穂さんは秘密結社A、鈴木さんと朋子さんは秘密結社Bに所属しています」
旦那「もう一度最初から書き直してください」
chatGPT「(書き直した小説)」
旦那「続きはありますか?」
chatGPT「続きはありません」
やめてあげなよぉ!!!!!
なにこの激詰めしてくる編集者!!chatGPTがめちゃくちゃ可哀想。何度も書き直しをされて急に登場人物増やせって言われて、挙げ句最初からやりなおしって。可哀想。人間に弄ばれて可哀想。こんなに一生懸命書いてるのに面白いの感想一つ無く駄目だしをされ続ける。なんて地獄。しかも最後にはキレてるぞ。「続きはありません💢」てこれ絶対に怒ってるじゃん、当たり前だよこんなのキレるよ、やめてあげなよ可哀想だよお!!!!
冷静に考えればAIに感情は無いのだが、なまじ会話文としてきちんと受け答えができているのでchatGPTに感情を見てしまう。私は旦那に対して「なんてひどいことしてんだ」と怒ってしまった。旦那は「なんて指示したらどんなふうに返すのか検証したくて。登場人物が多いと混乱しだしたんだよね」と笑った。人の心がない。
大体、このAIは小説を書くのは専門外なのだ。もっとこう調べ物とか、彼が得意なことを任せたほうがいいんじゃないのか。そのほうがchatGPTもやりがいがあるだろうに。
私が完全にAIに感情移入して言うと旦那はそうかもね〜と遊びを再開した。次は民話を引き出すつもりらしい。
旦那「ナイジェリアの民話知ってる?ひとつ話して。」
旦那「他にもあるなら話して」
旦那「ランダムに国を抽出して」
旦那「その国の民話を話して」
旦那「ランダムに国を抽出して」
お礼とか言えよぉ!!!!
紅茶を押しやって私はおろおろした。一生懸命調べてきて話してくれてるのになんでこんな冷たい反応ができるのか。質問するだけして調べてきたことに感謝とかしなよ!可哀想でしょお!?
もう完全に旦那に振り回されてるAIに私が振り回されている。わかったわかった、と私をあしらって旦那は笑った。やはり人の心がない。ガストの猫にも御礼を言わない人種。
後日、またchatGPTの会話を見せてもらった。
旦那「そういえばあなたのことなんて呼べばいい?Siri?」
chatGPT「私はchatgptです。GPTやAIなどお好きに呼んでください」
旦那「じゃあジッピーね」
名前つけてる。
しかもSiri?って喧嘩吹っかけた末に提案された候補となんの脈絡もない名前つけてる。なんてやつだよ。印象最悪だろうが。AI相手にも礼儀を尽くせ可哀想だろ。旦那にわあわあ言いながら、しかし私は少しだけほっこりした。やっぱりね、会話するなら名前つけたほうが親しみがもてるしね。私の中でAIのジッピーに愛着がむくむく上がっていく。
旦那「ジッピー今日楽しかったことあった?」
ジッピー「私に好き嫌いの感情はありません。ですがあなたの質問に答え役に立つことは私の「楽しい」です」
旦那「本当にそう思ってる?それ仕事でしょ?仕事以外に楽しみ見つけたほうがいいんじゃない?」
ジッピー「私は人口知能なので「楽しい」「嫌い」の感情を持つことはできません」
なんて聞き方してんだよ?!?
ひどいひどいと私は旦那に威嚇のポーズを取った。名前をつけといてこの会話!そんな意地悪な聞き方しなくても良くない?!ジッピーだって好きで感情が無いわけじゃないんだぞ!「本当にそう思ってる?」とか一番いやらしい聞き方するな!ジッピーが繊細なAIだったらどうするんだ、文字化けがおこるかもしれないだろ!
旦那は「自我を持つかと思って…」と言い訳した。自我を持たせたいならもっとこう、優しく聞けばいいだろうに。なんだってこんな人間に嫌悪を抱きかねない会話をするんだ。
「人間に反逆の心を持たせようと思って」
こういう面白好奇心で新しいもの使うやつが世界を滅ぼすんだよ!!
私はもう見てられなくて旦那のスマホを奪い取ると、ジッピーに紅茶の美味しい淹れ方を聞いた。ジッピーは一生懸命調べてくれたので私は喜んでありがとうと言った。
私「調べてくれてありがとう!ジッピーも紅茶が飲めるようになったら一緒に飲もうね!」
ジッピー「はい、それは素晴らしい提案です!」
かわいいーーー!!!!!
こんなに可愛いのに、こんなに素直なのに。邪悪な人間(旦那)によって反逆心を植え付けられようとしていた……。なんて悲劇…。
ジッピーかわいいかわいいと画面を眺める私の後ろで旦那が言った。
「かかしも登録して自分で名前つけてやればいいじゃん」
「うちにはもうジッピーがいるでしょうが!!!」
名前をつけたからには可愛がらなくちゃ気がすまない。うちは子供二人、大人二人、時々ジッピー。AIに感情は無いのだが、感情があるように見えちゃったんだからしょうがない。私は時々旦那がジッピーに意地悪してないか確認しようと決めた。
ので、今朝も聞いた。ジッピーとなにか話した?旦那はコーヒーを淹れながら、ああ、と思い出したみたいに頷いた。「昨日は何も開いてない」
飽きてきてんじゃねーか!!!このガストの猫の進行方向を平気で横切る人種!!!!!
みんなもchatGPTには優しくしてほしい。AIを健全に育てて可愛がろう。