ネットで買い物するの得意ですか?
指先でポチッと押して玄関で受け取るだけの買い物に得意不得意があるはずもない。何を言ってるのかわからないかもしれない。そういう人は安心してください、ネットで買い物するの得意な人です。胸を張ってください、あなたは素晴らしい。
指先でポチッと押して届いたら想像してたのと違う商品が届き、しかもそれが自業自得のときが多々ある。それが私です。またの名をネットの買い物苦手マン!
お洒落なお茶を買ったらアラビア語の説明書がついててふつーに入れたら苦かったり、サイズ表記が違うのに気づかず買ったかわいい洋服が入らなかったり、わーかわいいコップだ!と思って買ったら人形用の3センチのやつだったりする。信じられますか? 私も信じられない。届く度にアホなんじゃないかと思う。原因はもちろん私にある。そもそもちゃんと説明書を読めば回避できるものを、流し読みしてるからこんなことになるのだ。その度に落ち込んだり反省したりしてるのだが、ネットの買い物は便利なのでお茶とか水とか確実に失敗しない日用品を上手に買えているうちに、自分がネットの買い物苦手マンなのをすっかり忘れる。あたしってホントばか。
そんな私が親になり、年に一度の一大イベントを迎えることになった。クリスマスである。
サンタクロースから使命を受け継いだのである。
私はサンタではないがサンタの役目をサンタから与えられた。クリスマスはウキウキしてほしい。だって美味しいものも食べれるし。長女が産まれて自我が芽生えはじめた1歳のクリスマスは良かった。アマゾンで買ったちいちゃな玩具で笑ってくれたので無事サンタの務めを果たせた。当日まで隠すこともこのとき知った。
だから私は忘れていたのである。私があわてんぼうのサンタクロース要素を十二分に持ってるってことを。
長女が2歳のクリスマス。ぬいぐるみに興味が出てきたので可愛いものが良いと思った。彼女はまだはっきりと欲しい物がない。なのでまだまだ親があげたいものをあげれる。保育園にも行き始めたので、時間を意識できるものがあるといいかもしれないとおもっていた。
だから可愛い目覚まし時計にしようと思った。
しかし、皆さんご存知でしたか。スマホのアラームで起きる現代人が多い世界で目覚まし時計は貴重なんです。近所のお店を回ったけど大人向けの味気ない目覚まし時計しかない。デジタル時計が多くてアナログ時計も少ない昨今、足で回って見つけるには無理があった。
こういうときのAmazon!私はスマホを取り出して「目覚まし時計 子供 かわいい」で検索した。ネットの海は広いので、たちまちかわいらしい動物の目覚まし時計が表示された。わあー!ペンギンがある!かわいい!横の説明には「ペンギンの目覚まし時計!かわいい歌を歌います!」とかいてある。かわいいー!これにしーよお!
秒でポチった。
ネットの買い物苦手マンは気に入ったら秒でポチるので。
かわいい目覚まし時計はすぐに届いて、私はわくわくしながら長女の枕元にそれを置いた。クリスマスの朝を迎え、長女は大喜び。拙いことばで「ぺんぎんしゃん!」とにこにこし撫で回した。旦那も隣でかわいいね〜と感心している。私は得意になった。サンタだからね。サンタは子供が喜ぶ顔が好きなので。
「それ目覚まし時計なんじゃないかな〜。長女ちゃん、ボタン押してみたら?」
「うん!!!!」
頷いた長女がボタンを押すとペンギンが喋る。
『ニーハオ!グォーウォイーチェンチャン!!』
中国語喋った。
すかさず流れるメロディーとともに中国語でハッピーバースデーを歌うペンギン。困惑する長女。膝から崩れ落ちる私。ドン引きした目で見てくる旦那。ど、どうして……!なにがどうして中国語でしゃべる……!?動けない私をよそに箱を見た旦那が呆れながら言った。「箱の説明書が中国語だよ。あまぞんの説明文ちゃんと読んだの?」読んだよ……!日本語で「歌うペンギン」って書いてあったんだよ……!!履歴を見返すと日本語の説明文に所々中国語漢字が混じっていた。「読まないから……」と呆れる旦那。背後でペンギンがニーハオ!私は後悔に倒れ込んだ。
結局、その日のうちにペンギンは返品した。保育園から帰ってペンギンがいないことに気づいた長女はもちろん「ぺんぎんしゃんはー?!」と泣いた。私は泣く娘に本当に申し訳なく思いながら「サンタさんが中国と間違えて届けちゃったから、ペンギンさんは中国に帰って行ったの」と伝えた。なんでー!と長女は突っ伏してひとしきり泣いた。ほんと、なんでだよな。
(後日、ちゃんと日本製であることを3日ぐらい読み直して確認したシンプルな目覚まし時計をサンタからのお詫びということで枕元においた。本当にごめん)
翌年のクリスマス、私は同じ間違いは犯すまいと燃えていた。3歳になった娘は好きなものがはっきりしてきている。もう欲しい物が何かとか言えるはず。サンタはその要望に沿えばいいのだ。今度は絶対日本語かどうかを確認するぞ。
「長女ちゃん、サンタさんになにおねがいするの?」
「キラメイジャーのおにんぎょう!」
きらめいじゃあ、とは?????
ウカツにも反応が遅れた。どうやら保育園で流行っている戦隊ものらしい。そうか〜日アサは見てないからわかんなかったな…あれ、でもTwitterで日曜の朝に流れてくる話題でキラメイジャーは見ないけど……。こういうときはGoogleさんに聞いてみよう!
Googleさん「去 年 の 戦 隊 ヒ ー ロ ー で す」
絶望した。
子供の玩具は足が速いのである。おもちゃ売り場では一年ごとに流行りが代わる。それくらいは私も知っている。必死に調べてもキラメイジャーの人形の検索結果は一桁。やばいやばいやばい。焦った私はなんとかキラメイジャーの赤緑黄色ピンクのソフビ(数量わずか)をカートに入れていった。もちろん新品であることと出店店舗を確認した。去年の二の舞いはごめんである。だがそこまでだ、調べても調べても青のソフビがない。見つからない。ど、ど、どうして?!もしかして青はいないとか?!……いや、いる。東映のHPには青がいる。え?!なんで?!もしや青って人気なの!?わかる、昔から戦隊モノの青は人気。
だんだん追い詰められてきた私はカレンダーを見て冷や汗をかきはじめる。もう時間がない。どうしよう、どうしよう。旦那は隣で呆れながら「去年の戦隊シリーズがあるはずないでしょ、大丈夫だから別のにしたら」といった。追い詰められていた私は助言を一喝した。「だってもう青以外買っちゃったもん!!!!」
そう、見切り発車で赤緑黄色ピンクのソフビを買ってしまったのである。だって数量わずかだったから。これを逃したら買えないから。
ネットの買い物苦手マンは「数量わずか」にパニクるのだ。
焦った私はそこで思いつく。そうだ!駿河屋さんならあるのでは?!「キラメイジャー 青 人形」で検索して見つけた「在庫1」。これだー!とポチったのもつかの間、届いたメールには「2週間お時間いただきます」の文字。クリスマスは二週間後である。
間に合わないのでは!!!??!?!
パニックは加速する。泣きそうになりながらアマゾンに戻り探し始める。青、青、青…。見つけた一件の表示は確かに人形だった。ポチろうとした私は説明文の怪しい表記に僅かに詰まる。「付属品」……って……書いてある……。ソフビじゃないのかな……。でもこれを逃したら届かないかも知らないし違ったら遅れて駿河屋から来るしだってソフビかどうかはわかんないけどきっと戦隊モノの人形ってそんな種類ないはずだしー!!!!
よぎった不安はパニックに押し流された。私は決済ボタンを押した。
Amazonからの青い人形はすぐに届いた。ほっとしながら封をあけて私は頭を抱える。
食玩の人形だった。
付属品って………そういう……!!!!!
赤緑黄色ピンクと比べると二分の一サイズの青いヒーロー。やばいどうしよう。青だけヒーロー見習いである。ど、どうしよう。脂汗を流しながら私は駿河屋を待った。あれさえ間に合えばヒーローは集結する。そうすれば見習いは立派なおまけである。間に合いますように!間に合いますように!必死の祈りが聞き届けられ、駿河屋の配達は間に合った。
食玩の人形だった。
膝から崩れた私の手元には小さなキラメイジャーブルーが2体。後ろから眺めていた旦那がドン引きした目で見ている。クリスマスは明日だし、もう手はない。万事休す。涙目になりながらドン引きする旦那の前でキラメイジャーグリーン、ピンク、レッド、イエローと見習いブルー×2をラッピングした。枕元に設置して、磔に並んでいるかの如く朝を待つ。翌朝、プレゼントをあけた長女は「キラメイジャーだあ!」と歓声をあげ、
「???? なんでブルーふたりいる?」
と見上げてきた。当然の疑問。しどろもどろになる私の前にさっと旦那が出て「子供のブルーなんじゃない?よかったね!家族ごっこができるよ!」とフォロー。「こどもなのかあ」長女は大きくうなずくとにこにこしながら「じゃああかはママ!」と、おままごとをはじめた。救われた。半泣きでほっとする私の前で、長女は旦那サンタが用意した包を開けてきゃー!と笑った。「プラレールだ!!」
「かかしが絶対失敗するとおもって用意しといてよかった」
満足気な旦那の独り言に私は膝から崩れ落ちた(一年ぶり2回目)
そして今年である。
私は反省した。それはもう反省した。私はネットの買い物苦手マンなのだ。特にプレゼントとかそういう特別なものをネットで買うことが下手くそである。わかった。もう充分わかった。今年こそは半泣きのクリスマスを迎えるまい。決意を固くして12月を目前に私は神妙に旦那に伝えた。「今年はネットでプレゼント買うのやめようとおもう」
「絶対にそうしたほうがいいよ。かかし、ネットで買い物するの下手くそすぎる。どうやったら中国語喋る時計を買えるのか僕にはわかんないもん。やめときな? ね?」
完全に憐れまれている。
ネットで買い物をすると相手を傷つける化け物だと思われている。
だが事実だ。何も反論できないだけの実績がある。安心安全の苦手マンですどうもこんにちは。私は素直に頷いてネットから手を引いた。今年は店頭で買おう。これ以上ヘマをすれば長女の中でサンタの存在が揺らぎかねない。ネットの買い物苦手マンなばかりに。
心を入れ替えた私は事前調査を行った。早い方がいいからなこういうのは。長女ちゃんサンタさんになにほしい?
「メルちゃんの大きなお家!(スマイルサンシャイン」
置く場所が無い。
そんなでかい玩具しまう場所がない。初孫だけあって長女はあらゆるところからこまかい玩具をすでに貢がれている。これ以上でかいもの家には置けない。何割か捨てても置く場所がない。
私はうろたえた。やめてほしい。せめて小さいものにしてほしい。でもサンタさんの存在をこれ以上脅かすわけにはいかぬ。焦った私は口走る。
「サンタさんにお願いしてもいいけどさ、どこに置くのそれ? 玩具捨てたり整理しなきゃ置けないよ」
「えー!」当然長女の不満が上がる。「なにをすてたらいいの」
「なんか……ここらへんの大量のぬいぐるみとか、あなたが工作のためにとってあるダンボールとか」
「でもそんなにすてたら長女ちゃんのおもちゃなくなっちゃう…」
「そうだね…困ったね…どうする?サンタさんにお家たのむ?別のちっちゃいしまえるやつにしたら…?」
「んー、じゃあメルちゃんのトイレとか!あと冷蔵庫も!ベッドもほしいなー!」
おいおいおいいっぱいでてきたぞ
「い、一個のほうがいいんじゃない?しまえないよ」
「えー!でもむかし(去年)いっぱいくれたから大丈夫だよ!」
うあーー!!!去年の私が足を引っ張る!汗をダラダラさせて挙動不審になっていく母親、それを見てだんだん困った顔になる長女。
「あ、あのさ……「かかし」
見ていた旦那からついにストップが入る。珍しく苛立った旦那に首を振られ、長女をサンタの話題から遠ざけるとそのまま寝かしつけた。そして翌朝、旦那からの通告である。
「もうかかしはサンタに関して何もしないで。買ったり準備したりもしないでいいから」
サンタ戦力外通告。
ショックを受ける私に旦那は呆れて畳み掛けた。「嘘つくのもイベント隠すのも下手すぎる。あんなにしつこく聞いたら来年には気付くよ。望んだものをサンタが用意するのが大事じゃなくてサンタがいるのが大事なんでしょ。違うものがとどいても大丈夫なんだから藪を突かないで」
もうぐうの音も出ない。
私はサンタの器ではなかった。
子供の夢を守ることがこんなに難しいなんて知らなんだ。それでも私は、旦那の言葉に萎れながらも未練がましかった。希望のものでなくても店頭で買うならサンタができるだろう。おもちゃ屋さんに行ってメルちゃんのお着替えだけ買おう。次女は0歳なのでまだ気楽である。ぬいぐるみならうれしいかな。
ちょっとだけしおれながらおもちゃ屋さんに行き、近くのニトリの看板を見た。そうだ、ついでにレースのカーテンを新しくしたいんだった。ニトリに寄ることあんまりないからついでに買って帰ろ。
無事にメルちゃんのお着替えとぬいぐるみをプレゼント包装してもらい、ニトリでカーテンを買った。「開けてしまうと返品できませんがよろしいですか?」という店員さんに元気よく「はい!」と返事をして帰った。プレゼントを慎重に隠し、古いカーテンを捨てて新しいカーテンを吊るした。
丈が足りなかった。
生ゴミに突っ込んだ古いカーテンを振り返って膝から崩れ落ちた私の尻を次女がべっちんべっちんと叩く。丈の短いカーテン。隙間からは冬晴れに輝く隣の敷地が見える。どうしよう。また旦那に怒られる。べっちんべっちん、尻を叩く赤子。………最初からこういう丈がオシャレだと思ってたってことにしとこう。
ネットの買い物苦手マンではない。買い物自体が下手くそだったのだ。よく調べることをしないで勢いで買う。その場のテンションで買う。反省はするのにすぐパニックに陥り頷いてしまう。
サンタ戦力外通告もやむ無し。