カレーと私と長女とうどんとひやむぎ

うおー!すごく夕ご飯作るのがめんどくさい!わーやだ作りたくないだってまだごろごろしてたいしていうか子供がいないあいだにやりたいことが多すぎて時間が足りないわーわーわー!夕飯なんて凝りたくない〜〜〜!

ってときに凄く助かるのがカレー。

カレーって万能。まず入れる材料が決まっているので頭を使わない。次に切る順番がめちゃくちゃでもなんとかなるので、頭を使わない。さらに炒めて水入れてほっとけばもうできるので頭を使わない。

全然頭を使わない神の料理!それがカレー!

わかっているんです、スパイスとかなんか炒め方とか入れる具材でこだわりのカレーができるのは。こだわればこだわるほど多種多様なカレーができる。わかってるんです。

だけどパッケージの裏に世界一頭を使わない簡単な作り方が書いてあるのに一体どうして頭を使う必要があるのか?!言う通りにやれば美味しいカレーができあがるのにわざわざスパイスなんか考える必要ある?!ないねー!!!

娘とのバトルと仕事と家事と趣味の他にもう1ミリだって頭を使いたくないときはカレー。私の救世主甘口カレー。

 

というわけで帰ってきてから荷物を放り投げて、冷蔵庫から玉ねぎ人参じゃがいも豚肉を取り出した。うわ、しめじが半端に残ってる。ナスもあるな。入れちゃえ入れちゃえ!カレーはどんな母親より偉大な包容力を持っている。回らない頭で適当に作ったって美味いのだ。ハウス食品さんいつもありがとう。出した野菜をべりべり皮剥いてざくざく切ってどんどん鍋に放り込む。足元でチョロチョロする1歳児に「まってねー」と脳死で返事をしてべりべざくざく。とりあえず包丁を使う時間を最短にする。5歳がテレビの前から「ねえYouTubeみたい!!!」と怒鳴るので「見せてください、でしょうが!」「ミセテクダサイ」「一個にしてよ。ご飯には消して」と振り返らずにざくざくべりべり。許可が出たときの5歳の返事は「はーい♥」と超可愛かった。今だけである。後でギャオーッと泣き喚くのは目に見えているが今は思考の外に置いておく。私はカレーを作っているので。

鍋に材料を全部放り込んでからサラダ油をどぷんと入れて火をつける。手順が違う? いーのいーの、カレーは全部受け止めてくれるから。順番とか気にしない大らかさを持ってるから。カレーは私が間違えても「え、全然気にしないよ(笑)てかもっとわがまま言ってもいいのに(笑)」って言ってくれるめちゃくちゃ優しい彼女みたいなものだ。付き合いたてのなんでも言うこと聞いてくれる彼女。その優しさにつけこんで、肉の色が変わったらじゃがいもに火が通りきってなくても水をぶちこむ私はさながらネットで叩かれるクズ彼氏である。このくらい平気だよな!?俺お前を信じてるぜ!

トマト缶もぶち込んで、火を調節して煮てる間に洗濯物を回収する。YouTubeに齧りつく5歳の後ろで洗濯物を畳む。1歳が広げる。畳む。1歳が広げる。畳む。1歳がパンツかぶる。「テツダッテクレテアリガトォ」棒読みでぐちゃぐちゃの洗濯物をざっとまとめてタンスに突っ込んだ。一回畳んだから畳み終わったことにする。どうせ着る時に広げる手間が減ったことにしよう!今日はそうしよう!カレーは煮てる間に家事までできる!(できてない)すごいなあ〜!万能だなあ!

保育園の荷物をほどいて皿洗いと洗濯に回し、弁当箱を洗ってしまう。よしよしもうできるんじゃないか。あとはカレールー溶かしたら完成だぜ。ほんとにいつもありがとうカレー……脳死で作れるなんてほんと神…ほっと一息ついたところで5歳の声が飛んできた。

「今日の晩ごはんなにー?」「カレーだよ〜」「え!?」「え?!」ギャオーッの予感に振り返った。5歳が顰め面でひっくり返った。

 

「長女ちゃんカレーうどんがよかったのに!!!!ぜっ!!たい!!カレーうどん!!カレーうどんじゃなきゃ!!イヤダーーーーーッッッ!!!!!」(5億dbの絶叫)

 

出たよ……。反射で「はぁ〜〜?」と怒りが出る私の前で、1歳が長女と私を交互に見てから丁寧に床に寝そべった。

「だったぁーーーいやぁーーー!!!!」(1歳児なりの絶叫)

よくわかってないのにノリで叫ぶな。フェスじゃねーんだぞここは。家のリビングだぞ。「何回も言ってますけどねえ」私はブリッジの体制でカレーうどんを叫ぶ長女を見下ろして大人気なく声を荒げた。

カレーうどんはカレーの後だっていつも言ってんでしょーが!!今日カレーうどんなんか食べたら明日何食べんのよ!長女ちゃん2日続けて同じもの食べるの嫌がるじゃん!今日はカレーライスだよカレーうどんは明日ァ!」

口から先に生まれた長女が負けるはずもない。

「ヤダーーーッッッ!ぜったいぜったいカレーうどんがいいーー!!カレーうどんじゃなきゃたべないもん!!今日も明日もカレーうどん!!カレーうどんじゃないのはカレーじゃないいぃい!」

「うどんでもライスでも上に乗ってんのはカレーじゃ!!なんで長女ちゃんだけにうどん出さなきゃならんのじゃ!いいから飯を食え米を食え!」

「イヤだぁーーーーッッッ!!」

「あっぶぁうだッいぇーー!!」

「なんで次女まで叫ぶの?やまびこ?」

 

いつもなら折れない。「フーンあっそ、食べないならどうぞご自由に」でメニューも変えず出したものを食べさせる。だがこの「今日の晩ごはんはカレーうどんが良い」攻撃、ここ数週間連続で繰り出されていた。肉じゃがの日もカレーうどん、生姜焼きの日もカレーうどん、餃子の日も野菜炒めの日もラーメンの日もパスタの日もカレーうどんカレーうどんカレーうどんカレーうどんカレーうどんカレーうどんカレーうどん

疲れていた。いい加減にカレーうどんの呪いから解放されたかった。

ブチギレた私はフライパンを引っ張り出して水を張って火にかける。そんなに言うならやってやるわ。カレー様の包容力なめんなよ。

「じゃあ長女ちゃんは今日も明日もカレーうどんだからね!!!!残したらめっちゃくちゃ怒るからな!!」

絶対に母親に負けないスタンスの長女が吠える。

「いいよ!!!!!長女ちゃんカレーうどんすきだもん!!!!!」

湧いたお湯にひやむぎを一束ぶち込んだ。カレー鍋にルーを溶かしてカレーを完成させる。次女にカレーを盛って、冷ましている間に茹で上がったひやむぎをザルに揚げ、冷水をぶっかける。ジャジャっとかつてなく適当に水を切ったらその上にカレーをかけた。出汁だの葉物野菜だの知るか。うどんにカレーをかけたらカレーうどんじゃ。

さあ食えと出すと次女はご機嫌でカレーにがっついた。1歳はうどんとか関係なくお姉ちゃんと同じように叫びたかっただけなのである。犬の遠吠えか? ご機嫌でばくばくカレーを食べる次女の隣で、長女は箸をつかんでうきうきとカレーうどん……いやカレーひやむぎを啜った。

「おいし〜〜〜!!!」

ハウス食品ありがとう。ひやむぎさえも包みこんでくれる、カレーの力偉大なり。

 

長女はしっかりカレーひやむぎを完食したし、次の日も食べた。呪文のように言ってただけある。あれから夕ご飯を作る時にカレーうどんの要求はぴたりと止まり、今は「やきそばがいい」になっている。マルちゃん、頼む……マルちゃん……!

頭を使わなくても美味しいご飯が食べられる。企業様の努力で私は今日も生きている。ありがとうカレー、ありがとうハウス食品。ありがとうカレーの生みの親インド。

今日も美味しく食べています。