悔しいけど面白いヱヴァンゲリヲン
旦那が言った。「僕は今回のヱヴァンゲリヲン、庵野監督が終わらせたことがとってもえらいなと思った」「見に行ってよかった。エヴァは終わったんだ」。
20数年追いかけていたコンテンツに作者がきちんと始末をつけてくれることはファンにとっては幸せだろう。満足そうな旦那に私はよかったねえと答えた。旦那はいつになく真剣に続けた。
「かかしも見な? 今ならアマプラで見れる。旧から見るのは大変だから新劇場版だけみればいいから。いい? 見る前に言うとね、エヴァは感覚で見るものだから。わからない単語はわからなくていいから。雰囲気を楽しむ映画。ね? 難しいことは考えなくていい。通しで見ると庵野監督のこだわりが解かる。ほら、アマプラ開いて。今暇? はやく見ないと映画館の「:Ⅱ」終わっちゃうから。娘ちゃん寝てる今見たほうが良いんじゃない? ほら。今ひま? ねえ。いまひまでしょ???? 夕飯の支度はしておくからさっさと見なよ。 ネタバレ平気ならおすすめの解説動画もある。聞く? いまひま?」
圧がすごい。
何……この……なに? こわいこわいこわい。いっつも私が興味なかったらそんな押してこないじゃん。何? え? どうしたの? エヴァンゲリヲンて宗教なの?というか大体私が勧めたものだって「ふーん」くらいのテンションでそんな見ないじゃん急に観ろとか言われても観ないよ……とは言えない。アマプラをつけられてそんなことはもう……解説動画とか二日に一度お勧めしてくる。なんだこれ。ええ? なに……?
ヱヴァンゲリヲンってなに……?
結局旦那の圧に屈してエヴァンゲリヲンを観ることを決めた。しぶしぶ。
※このさきヱヴァンゲリヲンのネタバレがあります!
そもそもの話をしよう。
私はエヴァを観たことない。ネタだけは知っていた。でも観ることはないだろうなと思っていた。理由は主人公の碇シンジくんが嫌いだからです。
私はうじうじして悩みまくって動かない主人公が嫌いだからです。
大事なことだから繰り返しますが私は(略
大学時代にチラ見したヱヴァンゲリヲンの漫画は意味がわからなかった。単語も話の内容もよくわかんなかった。そもそもシンジくんの性格が受け付けない。すぐにキレるし拗ねるし逃げるし会話しないしうじうじしている。
たまにテレビで流れるカットでももう苛々する。「乗りたくないよ!」「目標をセンターに入れてスイッチ」「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」「なんでこんなことになるんだよ!」 アスカ風に言えば「ガキ」なのが明け透けすぎてもうなんか嫌いだった。
それに加えてカヲルくんの存在である。
CV石田彰の意味不明キャラを確立しただけあって意味不明さが群を抜いている。なぜそんな場所で体育座りをしているのだ。「やっと会えたね、碇シンジくん」って急に距離詰めてくるの怖い。誰?まず名乗れ。自己紹介をしろ。会話に謎の単語を入れるな。急にリリンとか意味不明単語を出すな。共通言語を話せ。そしてシンジ君の全部を知ってるという彼氏面を初対面でしてくるのをやめろ。
わけがわからないから嫌いだった。なんか鬱々とした話っぽいし、キャラクターに感情移入もできなそうなのでもうほんと、これっぽっちも観る気はなかった。
でも結局観た。しぶしぶ観た。
完結したと聞いたから。
ファン(旦那)が物凄い見てほしそうだったから。
旧作は勘弁してもらえたので、新劇場版ヱヴァンゲリヲンの「序」「破」「Q」、そして公開されている「:Ⅱ」を観ることにした。
序のあらすじとしては、急に父親ゲンドウに呼びつけられた碇シンジ君がエヴァに乗れと無茶ぶりされる話です。シンジ君は厭だ、父さんと話すために来たのに。と言いますがゲンドウ君が乗れっていうしなんか乗らないと自分の周りが死ぬっていうから頑張って乗りました。なんとか綾波も救うことができました。という話です。
見始めてまず思ったのは圧倒的にシンジ君に対して周囲が不親切であるということ。
いや、わかるよ。甘ったれのクソガキに苛々する気持ちはよくわかるよ。でも説明義務とかあるのでは? 大人なのでは??? まして父親なのでは???
碇ゲンドウくん。君のことです。
14歳ですよ。
そら反抗期とか思春期とかでこじれた会話になると思います。でもそこをさあ、説明するのが大人の義務なんじゃないの!?育児書読んだか!?ゲンドウくん!その時代ならネットで調べたりできるでしょ!ちゃんと「14歳 思春期 息子 対応」とかで検索かけたか!?「反抗期 子供 対応」とかでもいい。冬月先生もイエスマンしてないでそこらへんのケアしてあげて!あとなんかあの、レイちゃんの、あの……レイちゃんの部屋がひどすぎる。
もっとあの……あるでしょ!? いやわかる。わかりますよ。全部見終わった今ならわかる。
クローン人間だからね!代替品だから!別に部屋を檻にしないだけマシみたいな感覚なのかもしれないわ。だけどね、もっと……あるでしょ!!壁紙とか!!!間接照明とか!!!
マウスにだって環境配慮とかしなきゃいけないご時世にクローン人間しかも14歳女子に対して圧倒的に配慮が無さ過ぎる!!服とか……もっとあるでしょ!!検索して!!「14歳 クローン 少女 好みの服」とかで!!
駄目だ、この父親……頭は良いかもしれんけどコミュ力が無さ過ぎる……。
基本的に序は「なんでエヴァにのらないかんねん」というシンジくんの拗ねた感情に大人がまじで大人げなく「君が乗らないと世界が滅ぶからや。つべこべ言わずはよ乗れ」という感じで進むのです。私はパキッとした主人公が好きなので、最後までぐずぐず乗らない理由を探すシンジ君に苛々するわ、コミュ力皆無なやべー父親ゲンドウくんに苛々するわでもう大変ですよ。
さらに戦闘ではリツコさんが「第〇の使徒……こんな早くに……!」とかいろいろ解説してくれるんですけど全然解説になってない。リリンとか黒の月とか意味不明単語が多すぎてなんで戦ってるのかよくわからない。まず説明も無しにATフィールドが当たり前のように展開されるけどATフィールドってなに?アダムってなに?リツコさん現代日本語訳してそこから解説してほしいって何回も思った。
………でも面白い。
全体でみるともうめちゃくちゃな映画なのだ。
欠陥親父にぐずぐず息子、中間管理職の干物女性、わけわからん単語の飛び交う戦闘シーン。輪郭がわからん。戦う理由もよくわからん。敵だってわけがわからんし、シンジが乗ってるエヴァだってロボじゃなくてなんか肉肉しくてよくわかんない。
でもわかってしまう。
父親と話したかったのに見向きもされなかったシンジくんの悔しさと寂しさ。不貞腐れてしまう十代の頃の不安定な気持ち。
自分の過去と気持ちをシンジ君に託してしまう複雑なミサトさんの立ち位置。親友として心配するリツコの目線。レイの揺れる感情と、それに揺れるシンジの気持ち。トウジの苛立ち、ケンスケの無関心から興味へシフトする感情。
そういうキャラ毎の細かい感情が目線やらアングルやら表情やらが画面いっぱいから伝わってきて、わかってしまう。わからされてしまう。
ぐぬぬ、と唸って、私は携帯を弄りながら片手間に見るのをやめた。
「破」。
アメリカからアスカとマヤがやってくる。エヴァパイロットという日常の中でアスカ、レイ、シンジは交友を深めるが、父親と和解目前にアスカが使徒に汚染される。ゲンドウは拒否るシンジを無理矢理操作してアスカを殺させ、親子に後戻りできない溝が残る。エヴァから降りるシンジのためにレイが頑張って使徒と戦うも逆に使徒に取り込まれてしまい、シンジはレイを助けるために再びエヴァに乗る、という話。
アスカのシンジへの「バカぁ?」はもうほんと「せやな」以外の何物でもない。
だってね、ここまで乗ってですよ。ここまで乗ってまだ迷っている。もう腹をくくってエヴァのパイロットで一生食ってくぜ!父親なんて関係ないぜ!むしろ給料を交渉するぜ!とか言って好きなようにやりゃあ良いのに、まだ乗りたくないのにしぶしぶ乗っている、とかいう感じを出すわけ、シンジは。
諦めろよと。
仕方がないじゃんあの親父だし、みたいにね。父親を理由に諦めちゃえば楽なはずなのにそれをしない。アスカは逆です。エヴァにしか居場所が無いことをもう諦めてしまったが故にメンタルを鍛えた。そういうアスカからすれば望まれてパイロットになってるシンジのうじうじは死ぬほど苛つくと思います。
何が不満なんだよ、と。お前望まれて実力も無いのに居場所作ってもらっとるやないか、と。シンジへ向かって「七光り」っていうのはそういうことですよね。未練がましい男を見て苛ついている。私も苛つく。なんでそんな父親にこだわる? 無理だよあのコミュ障親父と関係を持つのは。
でもシンジ君にはそれができない。かといって、一歩踏み出して自分から父親に話しかける勇気も無い。ただただ父親が話しかけてくるのを待っている。見かねたレイがシンジのために(大好きなシンジのために!!!)父親と和解できる場を持とうとするわけです。
おかあさんかよ………
なんで……なんでそこまでレイちゃんが世話しなきゃならんのだ……!!!勝手に拗らせとけって言え!!シンジ君の前に君の部屋をなんとかしろ!!壁紙を変えろ!間接照明をつけろ!!本棚を買え!!親父は殴れ!!んもう!!
そして事態がそんなに上手くいくはずもなく、アスカが使徒に汚染されてシンジ君が絶望するっていうね……
でもこの状況は、考えようによっては別に鬱でも何でもない。
だって、アスカはシンジ君に冷たく当たっていたわけで、シンジ君が助ける義理もよく考えたら無いんだよ。それこそ初期綾波みたいにあの子と僕は違うから、と切り捨てて考えることだってできる。他人を拒絶してきたうじうじシンジ君なら。
それができなくなったのがシンジ君の成長で、一層私を苛々させる。
他人を許容してしまった。レイと言葉を交わし、ミサトさんと言葉を交わし、父親に期待したことで、アスカとの日常を受け入れている。許容してしまったから傷ついて、また塞ぎ込んで悩んで落ち込んでいる。
わかってしまう、この、他人と近づくことで傷ついたり哀しくなったり無力感に襲われる気持ち。
悔しいなあ~~~~~と素直に思った。
相変わらず戦闘はわけわからんし、綾波を助けたシーンも、ゲンドウくんや冬月くんの意味深台詞も、リツコさんのよくわからん聖書の引用も、加地さんの思わせぶりなあれやこれやもぜーーーーんぶわかんないのに、登場人物の感情だけはダイレクトにわかってしまう。
はーーーやだ。悔しい~~~~。
シンジ君が目を覚ますとそこは14年後の世界。綾波をすくった結果、シンジ君はニアサードインパクトというどえらい災害を起こしてしまい、人類を何割か殺してしまった。らしい。らしいというのは周りの様子が一変していて誰もシンジ君にちゃんと何も教えてくれないからわからんのです。
ただ、再びあったミサトさんはゲンドウ君へ反乱を起こす軍の司令官になっており、会って一言目が「貴方はもう何もしないで」。アスカは会っていきなりぶん殴ろうとするし、なんか他の奴らもみんなシンジ君に「あんたもうエヴァにのらないで」と言ってくる。そして助けたと思った綾波レイは死んでた。
訳の分からなさにイラッとしたシンジ君はミサトさんの元を飛び出しゲンドウ君に話を聞きに行った結果、カヲル君と二人で新しいエヴァに乗れという命令を下され監禁される。カヲル君に教えられて、自分の起こしてしまった災害の責任を取ろう、世界を変えるためになんか変な使徒に刺さってる槍を抜けばいいんだね!と納得し、綾波レイのそっくりさんと共に実行するが、それはゲンドウ君の罠だった。気づいたらカヲル君は死に、シンジ君は新たな災害への引き金を引いたのだった……続く。
という話。
言って良いですか?
開幕からわけがわからねえ!!!
シンジ君目線から見るからまじでわけがわからねえ。説明が足りてなさすぎる。ゲンドウ君に加えミサトさんまで説明をしない子になっとる。アスカすら。状況が理解できないまま出合うカヲル君もまじで何を言ってるのかわからん。なん……急になんだ? なんでピアノ弾いた? 急に……? いや…… なんで……??? なんで二人でピロートークみたいな雰囲気出してる? シンジ君もしっかりして。流されてないで状況を聞いて。頬を赤らめている場合じゃない。そいつはやばいやつ。簡単に知らん男と寝るな。
もう頭の中はハテナでいっぱいだよ。ハテナブログだけに。何もうまくない。
さらにリツコさんが輪をかけて何言ってるかわからない。
「南西に敵接近!」「来たわね…なんちゃらかんちゃらの時が」
私「なんて???????」
急にまた謎単語出してくる~~~~~!!! 戦闘の解説のようで解説じゃないのがいっぱいでてくる。でも絵はめちゃくちゃかっこいい~~~~~~~。
ミサイルがバンバン飛ぶ。使徒がぐるぐる回る。銃がダララララッとすごい音とアングルで敵をなぎ倒す。かっこいい。うおお、浮遊感まで画面から叩きつけてくる。爆音。爆風。爆裂。閃光。振り回すでっかい刃物!砕ける敵!さらなる敵!叩きつける拳!
興奮する戦闘シーンに目が釘付けになる。なんとかしようと躍起になるシンジ君のから回る絶望と、それに振り回されるアスカの苛立ち。んあああ。何やってるかわかんないのに感情だけがわかってしまう。ミサトさんの非情さの中の未練。あの数秒のカットだけで。
はあ~~~~~~悔しい……。わけがわからんのに面白い……一周回ってムカついてきた……。
Qは起承転結の転に当たる話だと、旦那の解説がなければ「:Ⅱ」は観なかったかもしれない。それくらいに訳が分からない話だったが、やっぱり画面は観てしまった。感情がわかってしまった。シンジ君のむなしさが、焦りが、恥やらなんやらが伝わってきて、うーーーっと唸った。
そして今日「:Ⅱ」を劇場で見てきたわけだ。
自分の失敗でゲンドウくんの陰謀の引き金を引いたシンジ君は抜け殻になる。そんなシンジ君と、シンジ君にくっついてきたレイのそっくりさんをアスカは村へ案内する。そこはニアサードインパクト(シンジ君が起こしちゃった災害)の生き残りが暮らす第三村。懸命に生きる人々の中でぼんやりするうちにシンジ君はようやく自分が起こしたことの責任を取ろうという気持ちになり、ミサトさん達の元へ戻る。
ミサトさん一派は最後の総力戦としてゲンドウ君へ玉砕必至の戦いを繰り広げ、シンジ君をゲンドウ君のもとへ送り込んだ。サシで乗り込んだシンジ君はゲンドウ君を許し、神になり、世界を作り替える。エヴァのない世界へ。
くっそ~~~~~~~~~~~~~~
おもしれえ~~~~~~~~~~~~~~~~
くやしい~~~~~~~~~~
いやもう、なんか……。なんかぁ……。
世界観はねえ、相変わらずわけがわからんのですわ。
まずニアサードインパクトからミサトさん達が部分的に大地を浄化する技術を開発して実行し、そこに第三村ができて生き残った人類が片寄せ合って生きてるんですけど、その技術とかどうしてそんなことができてるのかとかの説明は一切ない。14年の間に何があったのかも説明が全くない。わからない。意味不明。でもわかる。
生き残ったんだな、災害から生きてる人がいるんだなってことが。
ミサトさんたちはそれを守ろうとしているんだ、ということが。
第三村は人類の生き残りがなんとかかんとか暮らしている。配給はあるが、自給自足もしなきゃならない。田畑を耕し、身を寄せ合い、あるものを利用して住みやすくしながら生きている。
新しい命も生まれている。妊婦さんやら赤ちゃんやらがそこらじゅうを歩いている。
周囲は赤い死の大地なのに、その中にぽっかり空いた孤独な緑の中で根をはって生きようとしている人間がいる。クローンであり感情0だった綾波が、土に触れ命に触れ感情を覚えていく。ありがとうとおはよう、おやすみやさようならを覚えていく。生きるということを考える人形の愛おしさ。
この緑の大地にアスカは関わらない。生ぬるく生きる「人間」にエヴァパイロットであるアスカの居場所は無いと思っている。(なんか過去に問題を起こしたらしい。そこも説明ないからわからんけどアスカの性格上問題起こしそうだなってかんじではある)。それでもアスカはこの村を「守らなくちゃいけない場所」だと言い切る。
その寂しさと血を吐くような覚悟。
抜け殻になったシンジ君にアスカが吐き捨てた台詞がある。
「どうせすべてが裏目に出て自分のせいで最悪なことになったことにいじけてるだけでしょ。だからガキなのよ。そうやって拗ねて隅で寝っ転がってるだけで、誰かに慰められるのを待ってるわけ?親の言いつけだからって、そんな雑魚メンタルでエヴァになんか乗らないでよ!クソガキ!」(完全な台詞は覚えていないけどこんなかんじのことをいってた)
もーーーー、ね!!!!!
エヴァンゲリオン全てを通してのシンジ君への正しい評価ですこれは。というか私の言いたいことを全部言ってくれた感がある。
確かにね!?確かにシンジ君は理不尽な親父に振り回されましたわ。これは同情していい。でも逃げ道は何度でもあったんだよ。怒るタイミングだってあった。諦める方法だって、見ないようにする方法だっていーっぱいあった。
それをぜんぶ馬鹿正直に正面から受け止めて、さらにその傷を誰かに慰められるのを待って自分では何にもしなかった。それはシンジ君の弱さだ。そして甘えだ。むかつく。見ていて苛々する。
そして超わかる。
シンジ君は「厭なことから逃げて何が悪いんだよ!?」と言った。
すごくむかつくのは、私もそう思うけどそうできないからだ。羨ましいのだ、シンジ君がずっと。羨ましいからムカつくのだ。
責任を放棄してうじうじ悩む。自分がかわいそうだと思って駄々をこねる。
私だってしたい。責任から逃れたい。厭なことからは逃げたい。優しくされたい。認められたい。でも辛いことは厭だ。傷つくのは厭だ。傷ついた自分を可哀そうっていってほしい。そういうわがままを臆面もなく言っちゃうシンジ君が羨ましくてムカつく。そうやって甘えて許してくれるレイがいるシンジ君が羨ましくて苛々してムカつく。
だからアスカの苛立ちやしんどさに共感するし、シンジ君のいじけた姿に頭を掻きむしって叫びたくなる。
人間は、産まれちゃったら生きなきゃならん。
これはもう仕方のないことで、そして多分覆らない。第三村で生きてるトウジは言った。
「家族を守るために世間に言えないようなこともやった。綺麗ごとで飯は食えん。生きるために必死で、俺達は早く大人にならなきゃならなかった」
大人になるって、そういう甘えやわがままを押し殺すことだ。自分でなんとかしなくちゃならないってことだ。厭だけど。辛いけど。面倒だけど。
子供のままでいられたらいいのに。
厭だとか怖いとか、ほめられたいとか優しくされたいとか、そういうことで泣いて、泣いたら全部叶えてもらえる世界のままでいられたらよかったのに。いじけたら「どうしたの?」って聞いてもらえて、「大丈夫だよ」って守ってもらえたら良かったのに。
でもそんな時間はいつまでも続かない。
生きなきゃならんのだもの。
そういう寂しさと頼りなさと、同時に得る自由のたのもしさ。
ふと、第三村のシーンを見ていて「ラピュタ」を思い出した。
「人は土と離れて生きていけない」
あの映画でシータはそんな風に言っていた。土と暮らすのはしんどいことだ。農業はごまかしが効かない。面倒で大変なことだ。でも、離れて生きてはいけない。
シンジ君は自分のせいで起きた災害の結果が第三村だと気に病んでいた。でも抜け殻になっても腹は減る。いじけていても食べなきゃ死ぬ。
ご飯を食べながら泣いているシンジ君に、私は泣いた。
なんという恥ずかしさだろう。
自分の責任に嫌気がさして、自分自身に失望しても腹が減る。食べてしまう。生きようとしてしまう。恥ずかしいだろう。しんどいだろう。それでもそれが人間なのだ。生きなきゃならんと、みんなどこかでそう思っている。そんな気持ちがわかってしまうから、コンマ数秒のシンジ君の涙に強烈に揺さぶられてしまう。
共感するのはアスカやシンジ君だけじゃない。
ミサトさんの冷たい態度の理由。災害を引き起こした元凶シンジへ憤る乗組員。最後まで戦った仲間を想う乗組員。親友へ引導を渡すリツコ。個々のキャラクターの感情があまりにも生々しくそして容赦なく確立していて、あれもわかる、これもわかる、と話を追いかけていた。
「もう放っておいてほしい。関わらないでほしい。なのにここの人たちはどうして僕に優しくしてくれるんだ」。シンジ君の台詞に、綾波のそっくりさんは答える。
「すきだから」
「シンジ君がすきだから」
そういう言葉がずっとほしかったよな。
多分現実で、シンジ君のように優しくしてもらえることは大人になってからは少ない。いじけていても、かなしくても、放っておかれることのほうが多い。かかわりが少ない人の方が多く、救われる人の方が少ない。
でもシンジ君は救われた。見てくれる人がいた。
私は救われたシンジ君を見て、すこし胸が暖かくなった。
そういう言葉がずっとほしいよな。
大人になって辛く苦しい時があって、それでも頑張れるのは「自分がすかれている」というシンプルな事実だ。大事な人には自分を好きでいてほしい。それが親でも恋人でも友達でも、誰かひとりでいい。そういうことばがほしいよね。
多分きっと、シンジ君はあの親父からそういうのはもらえなかった。綾波のそっくりさんは、親みたいなシンプルで素朴な肯定をシンジ君に残した。それがシンジ君の力になった。大人への一歩の大きな力になったのだ。
で、しっかり大人に向けて一歩踏み出したシンジ君がゲンドウ君の元へ行くのだが。
ゲンドウ君がやらかした人類補完計画というのは、要約すると人嫌いでコミュ障の自分を唯一受け入れてくれたユイちゃんという嫁を生き返らせたかったから人類を一度リセットしてユイちゃんだけ確立させようぜ!ってかんじで起こったことだと説明されたんだよ。
つまり人類を巻き込んだ親子喧嘩ってわけ!!!!!!!!!!!!!!!
ゲンドウ君、君ねえ!!!!!!いくら!!人嫌いだからって!おめえ!極端にもほどがあるし!!おめえの人生は人類に関係ねえし!!おめえが息子を勝手に罪だと思ったおかげで息子の性格がアレになったんだが!??やっぱり育児書読んでないでしょ!!検索しろ!子育ての今を!!
映画館でウワーーーッッとなりながら、それでもゲンドウ君の捻くれた孤独がわかってしまうのが悔しい。
人が煩わしい、言ってることがその時その時で違う人がいることが、ものすごく不安になる。価値観を押し付けられる息苦しさ。馴染めない自分の惨めさ。
そういうなんというか、思春期に誰でも一度は考える繊細な部分が肥大化したのがゲンドウ君で、だからわかっちゃうんだよ。その投げやりな気持ちが。それがまた悔しい。
愛した女一人のために全部を投げ捨てて捻くれちゃうところとか。
わかってしまう。
あーーーくやしい。
シンジ君が世界を組み替えて、物語は現実に帰ってくる。
成長したシンジ君は、私たちの現実という土に足をつけることになる。
ヱヴァンゲリヲンを終わらせた庵野監督は、ふわふわとした子供の厭だ厭だという繊細な心情を、シンジ君を通してめぐらせて、そうして大人にした。20数年もかけて。
すごいスケールだ。
なんで世界が組み代わるのかとか、結局エヴァってなんだったのとか、カヲル君てつまり何なの人間なの彼氏なの、とか、もうそういう輪郭や全体像は全然わからない。わからないけどキャラクターの感情心情はすごくわかってしまう。悔しいけど面白い。わからないけどすげえ映画だ。
待ち続けたファンはどんなに嬉しかっただろう。初めて見た私がこんなに色んな感情を持つのだから、ファンの気持ちは想像もできない。
少なくとも、旦那に関してはバグるほど色々あったみたいだし。
画面が暗くなるなか、色んな感情を受け止めたことを考えていた。
エンディングで流れ始めた宇多田ヒカルのBeautiful World。
もしも願い一つだけ叶うなら
君の側で眠らせて
どんな場所でもいいよ
まさかこれが碇ゲンドウのキャラソンだったとはね……!!!!!
本当に本当に、悔しいけど面白い。
ヱヴァンゲリヲンでした。
追記:
緒方さんの声帯が成長すると神木隆之介になるなんてしらんかったんだけど!?!?そういうところだぞヱヴァンゲリヲン!!!!!